老年看護学実習での「身体面」のアセスメントの例をご紹介します。
身体面
運動機能
<例>歩行時にふらつきが見られ、介助なしでは自立歩行が困難である。また、食事や排泄の際は、声掛けなどによりできることもあるが行動がわからなくなったり、動作ができないことがある。原因として、加齢に伴う運動機能の低下、心肺機能の低下、難聴や視力低下などの感覚機能の低下、抑うつによる活動意欲の低下、アルツハイマー型認知症による認知機能の低下により脳のびまん性の萎縮、アミロイドβタンパク質の沈着による老人斑の出現、過剰にリン酸化されたタウというタンパク質が集積して起こるアルツハイマー神経原繊維変化、神経細胞の脱落が側頭葉と頭頂連合野や前頭葉に起こり、失行が出現していることが考えられる。1人で立ち上がって歩行しようとした際には転倒や転落をする可能性があるため、離床マットや見守り、歩行介助を継続していく必要がある。また、動作がわからなくて、生活のセルフケアができない時は、清潔や食事が行えずに感染に繋がったり、食事不足に陥る可能性がある。そのため対象者が1人で動作を遂行できるかを見守り、適切な動作を行えない場合は、言葉や仕草で動作をわかりやすく伝える。それでも遂行できない場合は、介助をする。
また、食事時や水分摂取時にむせなどは無く、嚥下機能に問題はないと考えられる。しかし、加齢に伴い歯周疾患や齲歯が増加し、歯の喪失が起こり、咀嚼能力が低下しすることや、唾液腺の萎縮によって口腔内の唾液分泌の低下が起こること、咀嚼筋群の筋力低下が起こっていることが考えられるため、食事中の表情やむせがないかに十分注意し観察する必要がある。
認知機能
<例>認知症を患っておりHDS-Rは3点であること、歩行時にふらつきが強く、独歩は困難であり、歩行介助が必要であること、食事やトイレ、口腔ケアは介助が必要であることから、日常生活行動が遂行できないと考えられる。原因として、アルツハイマー型認知症による認知機能の低下により失行が出現していること、声かけが理解できない失語が出現していることが考えられる。このままでは、日常生活セルフケアが不十分になり、食事、排泄、清潔が不足してしまい、栄養不足や失禁、清潔不足による感染が生じる可能性がある。そのため、対象者が1人で動作を遂行できるかを見守り、その上で道具を適切に扱うことができない場合には、扱い方を言葉や仕草でわかりやすく伝える必要がある。また、言葉が理解できていないと考えられるため、表情、仕草、態度によって、対象者が安心感を得られるように関わっていく必要がある。
言語機能
<例> 会話が噛み合わず困難であり、発語も不明瞭であることが多い。
原因として、加齢に伴い、内耳の感覚細胞、聴神経、中枢神経などに生理的機能低下が起こっていること、アルツハイマー型認知症による認知機能の低下により、言語理解の低下や、語想起の低下が生じていることが考えられる。
そのことによって、対象者が伝えたいことが伝わらずに、孤立感や不安感、不快感を感じる可能性がある。
そのため、対象者の表情、仕草、態度から思いを予測し、理解し、ケア提供者は表情、仕草、態度によって対象者が安心感を得られ、孤立感や不快感を感じないように接する必要がある。
感覚・知覚
(例)「暑くないです。」と返答していること、食事の時に「美味しい。」と発言があること、花が咲いていることを伝えると花の方を見ることから、暑さや寒さ、味覚、視覚に問題はないと考えられる。しかし、大きな声で話しかけないと返答がないことから、聴力が低下していると考えられる。
原因として、加齢によって内耳の蝸牛内にある感覚受容細胞の脱落やラセン神経節の萎縮が起こったこと、認知症による認知機能の低下の影響で、言葉の理解がしにくくなっていることが考えられる。
このままでは、言葉が聞き取れないことで、コミュニケーションに対する意欲が減退することや、不安感や疎外感を感じる可能性がある。
そのため、声をかけて注意を向けてもらってから話し始めること、騒音の少ない静かな環境でゆっくり話しかけること、通常の発話のリズムが崩れないように話しかけること、耳元で話しかけるよりも、正面で口型や表情を見せながら話しかけること、「はい・いいえ」で答えられるような質問形式や、二者択一での質問形式をとることなどに注意しながら会話をする必要がある。
排泄機能
(例)排尿回数は1日5〜6回程度で、正常であり、排尿障害は無いと考えられる。また、排便回数が3日に1回程度で少なく、便秘であると考えられる。
原因として、老化による、大腸粘膜の粘液分泌の減少、排便反射の減弱、腸管運動機能の低下、活動時間が少ないことによる消化管運動の低下が考えられる。
このままでは、腸内で悪玉菌が繁殖して腐敗を起こし、ガスが発生しやすくなり、腹部膨満や腹痛、腸全体の動きが悪くなることによる食欲不振や吐き気を引き起こす可能性がある。
そのため、毎日同じ時間に排便を促すことや、腹部マッサージをする必要がある。
栄養状態
(例)体重変化があまりなく、BMIは24で標準であるが、Alb:3.5g/dlと、基準値を多少下回っており、栄養量が不足している可能性があると考えられる。また、Hb:8.9g/dlであり、貧血を起こしていると考えられる。
原因として、アルツハイマー型認知症であることによって、失行が生じ、食事に介助が必要であり、食事摂取量が低下していることが考えられる。
このままでは、体重、骨格筋の筋肉量や筋力、体脂肪の低下や、感染を起こしやすくなり、生活自立度の低下に繋がる可能性がある。
そのため、献立の工夫や嗜好の考慮、栄養補助食品の活用を検討する必要がある。
実習での対象となる患者様は、教科書とは異なることも多いと思います。
個別性を出すポイントとしては、複数の参考書を活用し、対象者に当てはまるものを組み合わせていくことが必要です。
ネットの記事だけでなく、ぜひ本も活用してください😊
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